自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

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「無為の生活」がもたらす脅威

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●人間は努力に応じて向上する・・・努力をしなければどんなに優秀な人もダメになる

頭を働かせて力一杯努力すれば、必ずそれにふさわしい成果が上がる。勤勉は人間を前進させ、個性を引き出し、他人の行動をも刺激する。万人が同じように立身出世できるわけではないが、全体として人はそれぞれの努力に応じて向上を遂げるものなのだ。

イタリアはトスカナ地方のことわざにあるように、「誰もが広場で暮らせるとは限らないが、太陽の光はあらゆる人々の上に平等に降りそそぐ」のである。

一般的にいって、あまりに平板で順調な人生は人間をダメにする。身辺に何一つ不自由なく寝食にも困らないような暮らしより、必要に迫られて一生懸命働き、質素な生活を送るほうがむしろ好ましい。かなり苦しい境遇から人生が始まれば、それだけ労働意欲はかき立てられる。その意味で、貧困は人生における成功の必須条件の一つともいえる。

法曹界での成功の秘訣をたずねられた著名な判事は、次のように答えている。

「すぐれた才能のおかげで成功した者もいれば、コネやまったくの不思議なめぐり合わせで成功した者もいる。だが大多数は、一文なしの境遇から必死に努力して現在の地位に到達したのだ

ある腕の立つ建築家について、こんな話が伝えられている。

その男は、長い問建築の勉強を続けて力をつけ、諸国を旅して見間を広めた後、帰国して仕事を始めようとした。彼は、雇ってさえもらえれば何でもやろうと心に決めていた。最初に引き受けたのは廃屋の修繕に関係した仕事だが、これは建築業でもいちばん下っ端の仕事と見なされ、金の面でも割に合わないものだった。

だが、彼は分別をわきまえた男で、決して高望みなどしなかった。「とにかくまともな職にありつけたのだから、精一杯がんばって、いずれもっとよい仕事に回してもらおう」と決心したのである。

七月の暑い日に、彼は一軒のボロ家の屋根に登って仕事をしていた。そこへたまたま友人が通りかかったので、彼は額の汗を手でぬぐいながら屋根の上から叫んだ。

「おれはギリシア全土を見て回ったというのに、こんな仕事をするなんてまったくいいザマさ!」

だが、いくらつまらぬ仕事でも彼は手抜きをせず立派にやってのけた。そして根気強くがんばりながら、徐々にもっと金になる仕事へと移っていった。彼はやがて超一流の建築家と呼ばれるまでになったという。

実際のところ、努力は個人の進歩や一国の文明の発展の根幹を成している。努力もせずにどんな願いでもかなえられるとしたら、人は何も望まず、それを得ようと必死になることすらないだろう。それは呪うべき最悪の生き方である。人生に一片の目的も行動の必要性もないというのは、いやしくも理性ある人間なら考えただけでも耐えられぬほどの苦痛だ。

ホラス・ビアの兄が死んだとき、スピノラ侯爵がその死因をたずねると、ビアは答えた。

「兄が死んだのは、何もすることがなかったためなのです」

「かわいそうに」と侯爵はいった。

無為の生活にひたっていれば、どんな有能な将軍でさえ身を滅ぼしてしまうでしょうな

 - 6章 - 時間の知恵