自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

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誠実に生きる

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●こつこつと努力し、前向きに生きること

ザビエル以降も布教活動に従事した者は多いが、なかでも興味深いのはデビッド・リビングストンの生涯である。彼の祖先は、貧しいが正直なスコットランド高地人だった。祖先の一人は知恵に富み、思慮深いことでその一帯に知れわたっていたが、臨終に際して子供たちを呼び集め、唯一の遺産として次のような言葉を残したという。

「私は、生涯をかけてわが家系代々の伝統をつぶさに調べてきたが、先祖の中には不正直な人間など一人としていなかった。だから万が一、おまえたちやその子孫が不正直な道を歩んだとしても、それはわが家系に流れている血のせいではない。おまえたちは不正直な生き方をする血筋はこれっぱかしも引いていないのだ。正直に生きることだ。― これが、私の残せるたった一つの戒めだ」

十歳になったリビングストンは、グラスゴー近辺の綿工場へ働きに出された。彼は仕事に就いて初めてもらった給金でラテン語文法の本を買い、ラテン語の勉強を始めた。そして、以後何年間も夜学に通ってその勉強を続けている。

工場では毎朝六時から仕事が始まるが、早く寝るようにと母親から注意されない限り、彼はいつでも真夜中過ぎまで勉強に打ちこんだ。こうして、こつこつとではあるが古代ローマの詩人ベルギリウスやホラチウスを読み終え、さらに小説以外の本ならどんなものでも目を通した。なかでも、科学書や旅行記を多く読んだという。

わずかな余暇には、近郊を回って植物を採集し、植物学の研究にも精を出した。工場の機械がうなりを立てて回っている間も、彼は読書を実行している。自分が操作するジェニー紡績機の上に本を置き、機械の前を通るたびに一節ずつ読めるように工夫したのだ。こうやって、がんばり屋の若者は知識をたくさん身につけていく。そしてだんだんと彼の心には、世界のすみずみにキリスト教を伝道したいという夢が芽生えはじめた。

目標が定まったリビングストンは、単なる伝道師以上の資格を身につけるため、医学の勉強を開始する。生活を切り詰め、できるだけ金を貯めては冬期だけグラスゴー大学で医学とギリシア語と神学を学び、残りの期間は綿工場で働いた。大学の費用はすべて自分の工員仕事の給料でまかない、誰からも一文の援助も受けなかった。

「いま、ふりかえってみると、当時の苦しい生活が自分の成長に大きな影響を及ぼしているのは確かだ。私はそのことに感謝せざるを得ない。もし生まれ変われるとしても、やはり私は同じようにつましく暮らし、きびしい試練をくぐり抜ける道を選ぶだろう」

これは、彼のいつわらざる心境にちがいない。

 - 5章 - 意志と活力