自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

*

ウェリントンを大将軍たらしめた「実務能力」④

LINEで送る
Pocket

●正直さが人を惹き付ける – 常勝将軍の堂々たる告自

ウェリントンの実務家としての優秀さは、そのバカ正直な性質からも見てとれる。当時の戦いで、フランスのスルト将軍などはスペインから高価な絵画を数多く強奪して本国ヘ持ち帰っている。だがウェリントンは、たとえわずかでも財産と名のつくものには指一本ふれなかった。

彼が四万のスペイン兵を従えてフランス国境を越えたとき、兵士たちは「ここで一財産つくろう」とばかりに略奪や強盗をくりかえした。彼はまずスペイン人士官を叱りつけたが、あまり効き目がない。そこでついには、スペイン兵を全員本国へ送り返したという。

またイギリス軍がフランス国内へ進軍した時も、現地の農民は同国人の手から逃れてイギリス軍陣内へ駆けこみ、自分たちの貴重品を預けてその保護を頼んだという。これほどまでウェリントンの軍隊は信頼されていたのである。

ところが同じ時期に、ウェリントンは本国政府へこんな手紙を書き送っている。

「われわれは借金で首が回りません。私などは、おめおめ外出もできないくらいです。なにしろ、債権者が負債の支払いを求めて手ぐすね引いて待っているのですから」

ジュール・モレルはウェリントンの人となりを評する際に、この手紙を引き合いに出して次のように語った。

「かくまで堂々として、しかも人柄の高潔さをうかがわせる告白があるだろうか。二十年の軍歴を持つ老兵、鋼鉄の男、常勝の将軍が、大軍を率いて敵地に陣を構えながら、なおかつ債権者たちの前で縮こまっているというのだから……!古今の征服者や侵略者の中で、このような不安に心を悩ませた者は皆無に等しいだろう。戦いの歴史をひもといてみても、彼ほど崇高で純粋な心の持ち主はいないはずだ」

もっとも、当のウェリントンはこんなほめ言葉を聞いたら即座に首を振るだろう。

「別に、堂々とふるまおうとか高潔な態度を見せようとか考えたわけではない。ただ、借金は期限通りに返すのが実務上最善のやり方だと思ったまでだ」

彼はそう答えたにちがいない。

 - 6章 - 時間の知恵