自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

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ウェリントンを大将軍たらしめた「実務能力」

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●実務能力の重要性

第一級のビジネスマンをめざすには、すばやい直観力計画を断固やりぬく強い意志が必要だ。

それとあわせて、世渡りをする上での如才なさも重要な資質である。この資質は、一つには生まれつきの才能にもよるが、観察や経験によってこれをみがき、伸ばしていくこともできる。如才ない人間は、正しい行動パターンを実にすばやく見つけ出せる。だから目標さえはっきり定まっていれば、引き受けた仕事をたちどころに成功へと導いていけるのだ。

鋭い直観力断固たる意志如才なさ――この三つの資質は、戦場で軍を率いる将軍のように大勢の部下を指揮する人間には不可欠である。将軍というのは、兵士として優秀なだけでなく、実務家としてもずばぬけた手腕を持っていなければならない。なぜなら、兵士たちが勝利の日まで戦いつづけられるよう食糧や衣服、その他何でも必要な物資をあてがい、こまごまと面倒を見なくてはいけないからだ。そのため将軍には、あふれんばかりの機知と人間の性情についての深い知識、そして全軍の動きを把握する能力が要求される。

この点で、ウェリントン将軍は実務家としても超一流の人物だった。彼は向かうところ敵なしの名将として生涯を終えたが、それはひとえに天才的な実務能力のたまものである。

ウェリントンは、ヨーク公とウォルモデン将軍の指揮下でフランダースおよびオランダとの戦いに参加し、軍人としての第一歩を踏み出した。この戦いはイギリス軍の不幸な敗北に終わったが、そこで彼は、軍における実務処理や統率のまずさが将兵たちの士気をくじく原因となることを身をもって学んだ。

軍隊に入って十年たち、ウェリントンは大佐となってインドヘ派遣される。上官の報告によれば、彼は疲れも知らず精力的に働く勤勉な将校だった。軍務についてはごくささいなことまで自分で掌握し、部下の規律を最高水準にまで引き上げようと奮闘していた。一七九九年にハリス将軍は手紙にこう書いている。

「ウェリントン大佐の連隊は、全軍の模範である。軍人としての態度、規律、教育や秩序のいずれをとっても、まことに申し分ない」

こうして軍の中枢からさらに信頼を得たウェリントンは、まもなくマイソール州の州都の司令官に任命される。マラータ族との戦いで初めて軍の指揮をとった彼は、わずかに一五〇〇名のイギリス兵と五〇〇〇名のセポイ兵の混成部隊を率いて、二万の歩兵と三万の騎兵から成るマラータ族を打ち破る。これが有名な「アセーエの戦い」である。当時彼は三十四歳の若さだったが、このみごとな勝利にも決して有頂天にならず、また誠実そのものの人柄は少しも損なわれなかった。

 - 6章 - 時間の知恵