自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

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真の雄弁は無言の実践の中にある

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●行動によって人を動かす

これまで述べたように、われわれの見聞きする行ないや言葉はもとより、われわれ自身の言動も大きな影響力を持っている。その力は、自分の将来のみならず社会全体の方向をさえ左右しかねない。

したがって、いかに貧しく取るに足りない人間であろうと、その人が日々の生活で無言のうちに示す模範的な行動はかけがえのない価値を持つ。そして誰もが、そのような素朴で貴重な教えを他人から受けている。

この意味では、どんな境遇も人間にとっては有意義である。なぜなら、低い場所に置かれたローソクも、丘の上に立てたローソクと同じように忠実に周囲を照らし出すからだ。

仮に外面上は不幸な境遇――たとえば、へき地のボロ屋や大都会の狭い裏道に暮らしていようと、真の人間はその中で成長していく。せいぜい自分の墓が埋もれる程度のわずかな土地しかなくても、そこでまめに働けば、その何千倍も広い土地を相続した人間以上に立派な目標を達成できる。

人生という誰にでも共通の仕事場からは、勤勉や学問や高いモラルが生まれもすれば、逆に怠惰や愚行や堕落が生まれる場合もある。どちらにころぶかは、本人が善行の機会をどう利用するかにかかっているといえよう。

立派に歩んだ人生と正直一途な人格は、子孫と社会への大切な遺産である。このような人生や人間性は、美徳の何たるかを雄弁に教え、悪徳をきびしく批判する。それは、人間にとっていちばんすぐれた富を生む源泉となるのだ。

詩人ポープは、自分の出自のことをからかわれたとき、次のように、実に堂々と切り返した。

「確かに両親はそうでしたが、私を赤面させるような恥ずかしい真似をしたことは一度もありませんでした。息子の私にしろ、ご覧の通りのありさまですが、両親を泣かせた経験は決してありません。それで十分ではないでしょうか」

他人を動かそうとする時、あれこれ命令するだけではうまくいかない。まず自らが進んで手本を示さなければいけない。チザム夫人は自分の成功の秘訣をこう語っている。

人に何かしてもらいたいと望むなら、自分が率先してそれをやるべきです。口先ばかり達者でも何の役にも立ちません

単に言葉で語るだけでは、真の雄弁とはいえない。お題目をいくら唱えても計画は少しも進まず、おしゃべりの域を一歩も出ない。そのことを悟ったチザム夫人は、自分から行動を起こした。彼女が本気で計画を実行するのを見て、周囲の人々はその決意に打たれ、援助を買って出るようになった。

すぐれた業績を成し遂げるのは雄弁家でも高邁な思想家でもなく、むしろ、行動によって人を説き伏せられる人間なのである。

 - 9章 - 素晴らしい出会い - 人生の師・人生の友・人生の書