自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

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金の持つ負の効果

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●「ひょうたんザル」の教訓

世俗の成功は、金をいくら貯めたかではかられる。この成功は、確かに目もくらむほどすばらしいものに映る。誰もがそれを多少なりともほめたたえるが、それは無理もない話だ。

利口で、根気強くチャンスを抜け目なく狙っている人間なら、上手に世渡りをして成功を収めることも十分に可能だろう。

しかし、そのような人間が常に立派な人格と善良な資質を持っているかといえば、一概にそうとはいえない。物事の道理は金より大切であるが、その点を少しも理解していない人間でさえ金持ちにはなれるのだ。

しかも、そんな金持ちは実際はとてつもなくみじめで貧しい人間だ。富は、何ら人間の道徳的価値の証明にはならない。ツチボタルがその光で自分の薄汚ない姿を照らし出すように、きらびやかに輝く富も往々にしてその所有者の下劣さを浮き立たせるのである。

金の亡者となりはてた人間を見ていると、欲張りなサルの話が思い出される。

アルジェリアのカビール地方の農民は、ひょうたんを木にしっかりとくくりつけ、中に米粒を入れておく。ひょうたんには、サルの手がちょうど入るくらいの穴が開いている。夜になると、サルは木のところに来てひょうたんの穴に手を突っこみ、米粒をわしづかみにする。そして握った手をそのまま引きぬこうとするのだが、きつくて抜けない。手をゆるめればいいのに、そこまで知恵が回らないのだ。夜が明けると農民に生け捕りにされるわけだが、その時のサルは、米粒をしっかり握りしめたまま実に間の抜けた顔をしているという。

これは、まさしく人間の戯画に他ならない。この話の持つ教訓は、われわれの生活にも広く当てはめて考えることができるだろう。

だいたいにおいて、金の力は過大評価されている。世に役立つ偉大な業績の多くは、金持ちや寄付金番付に名を連ねた人間ではなく、財政的には恵まれない人間によって成し遂げられてきた。偉大な思想家や探検家、発明家、そして芸術家に大金持ちはいないし、むしろその多くは、世間的な境遇の面からいえば貧しい生活を強いられてきた。

富は、行動を刺激するよりむしろ行動を妨げる。多くの場合、富は幸運を呼ぶと同時に不幸の種ともなる。大きな財産を相続した若者は、安易な生活に流されがちだ。望むものが何でも手に入るため、かえって生活にあきあきしはじめる。戦い取るような特別の目標もないから、手もちぶさたの毎日を持て余すようになる。彼のモラルや精神力は、いつまでも眠りからさめることがない。それは、まるで波にもてあそばれるイソギンチャクそのものの生活だ。

もちろん、金持ちにも正しい精神を持った人間はいる。そのような人は、怠惰をめめしいものとして一蹴するだろう。富や財産につきまとうそれなりの責任を自覚すれば、もっと立派な仕事をめざすようになるかもしれない。だが、いかんせんこうした例はほとんどないのが世の常だ。

 - 7章 - 金の知恵