自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

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勝負のカギとなる「持続力」①

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●習うより慣れろ

堅忍不抜の精神は、何ものにも代えがたい貴重な資質である。著名な発明家の生涯には、この精神が脈々と息づいている。

ジョージ・スチーブンソンは、若い人にたちに向かって「私はねばり強く努力した。諸君も同じように努力したまえ」と貴重なアドバイスを与えた。実際、彼が蒸気機関車製造の第一人者となるまでには、なんと十五年余りの歳月が費やされている。蒸気機関の改良発明家ジェームス・ワットにしても、研究を完成させるには三十年にわたる努力を必要としたのである。

科学の分野であれ、芸術の分野であれ、こうした持続的な努力が不可欠なのはいうまでもない。

●天才を育てた「早朝の二時間」

「天才とは忍耐なり」と述べたフランスの博物学者ビュフォンは、自然科学の分野で偉大な業績を収めたが、若いころはむしろ月並みな能力しかない凡人と見なされていた。実際彼は、ものごとを理解したり一度得た知識を思い出したりするのに時間がかかった。しかも無精な性質だった。裕福な家庭に生まれたせいもあって、そのままでは贅沢三昧の自堕落な生活にのめりこんでしまうのではないかとも思われた。だがビュフォンは、快楽の誘惑からきっぱりと身を引こうといち早く決意し、学問と自己修養に励んだのである。

ビュフォンは、時間というものを限りある貴重な財産だと考えていたが、そのくせ早起きができずに大切な時間をムダにしていた。彼はこの寝坊の悪習を断ち切ろうと決意し、早起きを試みるが決めた時間にはなかなか目が覚めない。

そこで召使のジョゼフに手助けを求め、朝六時前に起こしてくれたら、その都度クラウン銀貨を一枚ずつほうびにやろうと約束した。ところが初めのうち、ジョゼフが声をかけても気分がすぐれないからもう少し寝かせてくれと泣きついたり、安眠をじゃまされたと腹を立てたりで、さっぱり起きようとしない。そのくせ、ようやく目を覚ますと「どうして約束の時間に起こさなかったのか」と逆に小言をいう始末だった。

主人の態度に腹をすえかねたジョゼフは、なんとしてもクラウン銀貨を手に入れようと決心した。その結果、主人の嘆願や「仕事を首にするぞ」というような脅しにもひるまず、無理矢理定刻には主人を寝床の外に引っ張り出すようになった。ある朝などは、ビュフォンがいつになくぐずっているので、業を煮やしたジョゼフは洗面器に冷たい水を汲み、それを寝巻きの背中から流しこんだ。その効果はテキメンだった。

「博物学者に関する私の著書のうち三、四巻は、召使のジョゼフの力に負うところが大きい」としばしば彼は語っている。

●秩序立てて仕事をできない人間は才能の四分の三を浪費している

四十年間にわたって、ビュフォンは朝の九時から二時まで勉強し、夕方はまた五時から九時まで机に向かうという生活を続けた。毎日時間を決めて学問に打ちこんでいるうちに、それが習慣として完全に身についてしまったのである。

ビュフォンの伝記作家はこう書いている。

「彼は、仕事なしには生きられない人間だった。そして研究は、彼の生活にとって大きな魅力だった。彼は栄光に満ちた生涯の最期が近づいてからも、“あと二、三年でいいから、もっと研究を続けたい”と幾度も口にしていた」

ビュフォンは実に良心的な学者で、読者には自分の最高の思想を最良の表現を用いて伝えようと常に腐心していた。そのため文体にも完璧を期し、原稿にくりかえし手を入れて倦(う)むことを知らなかった。『自然の時代(Έpoques de la Nature)』という本を著したときなどは、満足のいくまで少なくとも十一回以上は書き直したという。

このようにビュフォンは、しんから仕事の虫であり、どんなことでも段取りをととのえてテキパキとこなさなければ気がすまなかった。

「秩序立てて仕事をすることを知らない人間は、いかに天賦の才に恵まれていようと、その才能の四分の三は浪費しているも同然だ」と、彼はつねづね話している。

当時フランスの学者サロンの中心人物だったネッケル夫人は、ビュフォンについて次のように語っている。

「“天才とは、一つの問題に深く傾注した結果生まれるものだ”と彼は強く主張していました。彼自身、原稿を書き上げるだけで精根つきはてるようですが、疲れた体にムチ打って推敲(すいこう)のペンを握るのだといいます。もちろん、すでに完璧の域に達していると思われる文章についても手抜きはしません。あきあきするような書き直しの作業が、そのうちに喜びに変わってくるのです」

最後に、ビュフォンの偉大な著作のすべては、重い病との苦しい戦いの最中に書かれ出版されたという点をつけ加えておくのも、あながち無益なことではないだろう。

 - 2章 - 忍耐 努力が苦でなくなる法