自助論 全エピソードまとめ

自らを律し、成功を勝ち取ってきたサッカー日本代表の本田圭佑選手。彼の愛読書であるサミュエル・スマイルズの自助論の全エピソードを掲載しています。

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自分で勝手に限界を作らない

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●この人には「ここで行き止まり」の柵はない

窮乏にさいなまれながらも、勇気と忍耐を奮い起こしてそれに立ち向かい、ついに成功を勝ち取った芸術家は多い。反面、貧困に耐えきれず零落していった者も数限りなくいる。

画家ジョン・マーチンも、たぐいまれなく困窮を経験した人間の一人だ。初めての大作にとりかかっている間も、彼は一度ならず餓死寸前にまで追いこまれる。ある時などは、手元にわずか一シリング銀貨しか残っていなかった。その銀貨はあまりにみごとな光沢だったので最後まで手離さずにいたのだが、万策つきた彼は、ついにそれでパンを買いにいく。

パンを求め、帰ろうとすると、店の主人がいきなりパンをマーチンの手から引ったくった。そして支払いに使った銀貨を投げ返すではないか。光り輝く銀貨も、困窮しはてた画家の役には立たなかった ― つまり、それはニセモノだったのだ。下宿へ戻ると、彼はそこら中をひっかき回してわずかなパンくずを探し、それを口に入れて飢えをしのいだという。

こんなみじめな状態でも、マーチンは絵の制作にだけは熱中し、精力的に構想を練りつづけた。ひたすら努力し、そして時機を待つ勇気が彼には、あったのだ。数日後に作品が発表されると、世間はこぞってその出来栄えを称賛し、名声は不動のものとなった。

いかなる境遇にあろうと、勤勉によって天賦の才をさらにみがきつづけていけば、自らを守る力は必ず与えられる。いくら遅くなろうが、必ず名声が訪れるにちがいない。多くの偉大な芸術家と同様、マーチンの一生もそのことをはっきりと裏づけている。

絵画や彫刻と同様、音楽においても他に抜きんでるためには努力と勤勉が欠かせない。

ヘンデルは、疲れも知らずひたすら作曲に打ちこんだ。敗北にも意気消沈するどころか、逆境におかれると彼はかえって力を奮い起こした。

ある年などは借金で首が回らなくなりひどい屈辱を味わったが、決してそれに屈することはなかった。その一年に彼は、「サウル」、「エジプトのイスラエル人」、「ドライデンの“頌歌(オード)”のための楽曲」、「十二の大協奏曲」、オペラ「アルゴスのジュピター」を作曲したが、これらはみな彼の最高傑作の中に教えられている。

ある伝記作家は、ヘンデルについてこう書いている。

「勇敢にも、彼は何でもやってのけた。そして誰の助けも借りることなく一人で優に十二人分の仕事を成し遂げた」

ハイドンは自らの芸術について「一つの主題をすくいあげたら、あくまでそれを追求していくことだ」と語った。モーツァルトも「仕事こそ私の無上の喜びだ」と述べている。ベートーベンの好んだ格言は次のようなものであった。

「向上心に燃えた有能で勤勉な人間には、“ここで行き止まり”という柵は立てられない」

ある時、ピアノ奏者のモシェレスが、ベートーベンにオペラ「フィデリオ」のピアノ用の楽譜を手渡したが、その最後のページの片すみには「神の助けによって、つつがなく演奏が終わるように」と記されていた。それを見たベートーベンは、すぐにペンを取ると、その下にこう書き足した。

「神に頼るとはなんたることだ。自らの力で自らを助けたまえ」

この言こそ、ベートーベンにとって芸術家としての生涯を通じた座右の銘となっていたのである。

 - 4章 - 仕事